忍者ブログ

雑記

急遽移転。色々ごった混ぜの闇鍋状態。本家はhttp://kindlywind.xxxxxxxx.jp/
Prev | 2024/05 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 | Next
[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

013:二度と戻れない、その場所
013:二度と戻れない、その場所


日は暮れて、夜色の空にはかすかに星が散っている。街明かりのせいで今にも消えそうな星を見上げて隗夜は背を丸め、両手をコートのポケットに突っ込んだ。右のポケットに入れておいた小さなカイロはもうほとんどその効能を発揮していないようだが、かじかんだ指で包み込むとかすかなぬくもりが指先を温める。
「寒いな……」
つぶやいた吐息は白く闇に溶けていく。
「遅かったな」
隗夜の足元に歩み寄り、ウェルナスバーグはそう言った。
「ちょっ、ウェイ」
慌てて周りを見回して、人っ子一人見当たらないことを確認してから隗夜はため息をついてしゃがみこんだ。
「お前ね、どうするのさ人に見られたら」
「私をお前と一緒にするな。確認くらいとうにしている」
ふん、と鼻を鳴らしてウェイは優雅に毛づくろいを始める。いかにもやわらかそうな艶やかな黒い毛並みのおかげで、ご近所ですっかり人気のウェイである。最近では隗夜の知らないところでちょくちょく美味しいものをいただいているらしい。本人談によれば。
猫が喋るなんて許されてたまるものか、と最初は思った。けれど残念ながら多少おかしなものに慣れてしまった隗夜にとって、残念ながら受け入れなければならない事実がたまに、そうたまにあるということはまぁ……認めざるをえないことだった。話す狐の霊しかり、現世の人間に縛られた少女しかり。
「隗夜、さっさと手を出せ。私は疲れた」
「……ご立派な足が四本もついているんだから自分で「おい」……わかったよ、ほら」
隗夜が片手を差し出せば軽々と飛び乗って肩に上る。一般的な成猫の体重は約5キロ。成人男性である隗夜といえども乗られて気にならないほどではない。
「ウェイ、体重増えてないか?」
「貴様それはどういう意味だ」
「いや、前より重いような……」
「貴様が軟弱なだけだろう。むしろもう少し肉をつけろ乗りにくい」
「なんでウェイの快適な椅子を作るためだけに俺が体重増やさないといけないんだ……。あ、雪」
視界を小さな白がよぎる。足を止めて空を見上げれば、小さな白い欠片がはらはらと舞い落ちてきた。
「そうか、夜には雪って予報もでてたっけ……。道理で寒いはずだ」
「東洋でも、雪は降るのか」
さきほどより距離の近くなったウェイが、そう懐かしそうにつぶやいた。
「そうか、イギリスはもっと降るもんな」
「ああ……。もっとも、聖誕祭のころには一面の雪だ。年が明けても降らないのだから、もう降らないものと思っていた」
「こっちは降っても少しだけだよ。今日のもこの分じゃ明日にはなくなってるだろうな」
「ああ」
空を見上げるウェイを見やって、隗夜はまた歩き始めた。

「懐かしいのか?」
「なに?」
「イギリス」
横顔を見つめる赤い瞳と目を合わせ、隗夜は尋ねる。
「懐かしい……そうだな、懐かしい」
舞い落ちる雪にもう一度目を向け、そのままウェイは語りだした。
「イギリスは懐かしい。友が―大切な友が、眠る土地だからな」
「……前に、豊さんに頼んでた人か」
「ああ。あれはバカな男だった―だが、良い奴ではあった」
「あの時の乱闘ってのはなんだったんだ?」
「貴様は聖遺物を知っているか?」
「キリストの遺品、だったっけ。けどあれ、本物なんてあるのか? 偽物だらけって話だろ」
「ああ、それも事実だ。だが中世以来誰もがそれを求めていた。西洋ではな」
「その辺は宗教的な違いか……」
「だろうな。そして聖遺物は魔術師の間ではさらに価値が跳ね上がるのさ」
「霊験あらかた、ってわけか」
「そんなところだ。その一つが見つかった、という話が出た」
「話だけってことは、結局……」
「偽物だったらしい、と聞いた。けれどそんなことはあの時は分かっていなかったからな」
「そんなもののために、争うのか」
「魔術師たちにはそんな風にいえるものではないのさ。」
「……そっか」

分からない世界だ。術を使う側には入らないと、術師になるという道を捨てた自分には。きっとその世界にはその世界の流儀があり、考え方があるのだろう。
「帰り、たいのか」
空を見上げ続ける黒猫に、そう声をかけた。雪の向こうに、赤い瞳は何を見ているのか。
「さて、な。バカの置き土産のおかげで私は帰れない」
「そうだな……」
どうしようもできないよ、と首を振った豊の姿が脳裏によみがえる。例え普通に、まっとうな交通機関を通しても、あの地を踏むことはできないだろうと。
「けれどな」
「うん?」


「こちらでも雪が降るのなら……、こちらも、悪くはないだろう」
「……かもな」
空を見上げる赤い瞳を追うように、一人と一匹で空を見上げて。
落ちてくる雪を、ただ眺めた。
その先にある、何処かを。



ひさしぶりすぎてぶんしょうをかくことがいちばんむずかしかったです。
隗夜がむずいとかウェイさん一人称なんだっけとかいう問題じゃない。
根本的に文章が書けない。
うわーん。
でも書きたいんだよー。

PR

Comment

お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
パスワード   

TrackBack

TB Address:
カレンダー
04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
プロフィール
HN:
HP:
性別:
非公開
自己紹介:
暇じゃないはずなのに書き続ける物書きもどき。結構長くやっている割に上達しないという。
時々テンションが高く、可笑しくなっていることがあるが放置すべし。
好き:
音楽:UVERworld
本:京極夏彦、西尾維新、はやみねかおる、他
最新記事
(03/23)
(12/30)
(04/16)
(04/11)
(04/09)
最新コメント
[01/19 NONAME]
[01/14 朱]
[09/13 lorelei]
[09/07 黎]
[09/01 朱]
最新トラックバック
バーコード
忍者ブログ | [PR]

Material by Quartz